食塩と高血圧

高血圧を指摘されている方には管理栄養士との食事相談を勧めています。血圧を下げるためには、食事中の塩分を制限すると効果的なことが多いためです。今回は食塩と高血圧に関していろいろと考えてみたいと思います。
食塩の過剰摂取が高血圧につながることに気付き、その医学論文が初めて発表されたのは1904年のことでした。食塩を制限すると血圧が下がったという研究内容でした。その後もいろいろな疫学研究が積み重ねられ、1988年にはINTERSALT研究という発表がありました。この研究には世界の32カ国52施設が参加し、10079人のデータが集められています。患者さんに24時間の尿をためるよう指示してナトリウム排泄量を測定し、その値からナトリウム摂取量を推測しています。また同時に血圧も測定し、下図のような結果が得られました。ナトリウム摂取量と血圧の間には、弱いながらも正の相関関係があることがわかりました。(摂取する塩分が多くなるほど、血圧が高くなると言うことです)

こういった疫学研究と平行し、動物実験で食塩と高血圧の関係も調査されました。しかしラットに高濃度の食塩水を与えた場合、高血圧になるラットとならないラットがいることに気づきます。このような実験から「食塩感受性」という現象が存在することに気づきました。これは人間にも当てはまる現象で、ヒトの「食塩感受性」を上げる要因としては(1)加齢(2)黒人(3)メタボリックシンドローム(4)交感神経活動の高い人(5)カルシウム欠乏(6)その他が挙げられています。年がいくほど塩分によって血圧が上昇しやすくなることがわかります。このため、加齢に伴い摂取する塩分量を少なくする必要があるのです。若いときは何を食べても血圧は上がりませんでしたね。また、メタボと判定された方も同様です。交感神経活動の高い人とは、いつも精力的に活動している人のことで、A型性格と呼ばれるような人です。血液型のA型とは無関係です。食生活でカルシウムをあまり取らない人も、塩分の感受性が高くなることがわかっています。

さて、少し話しがそれますが、黒人はなぜ「食塩感受性」が高いのでしょうか?下図をご覧下さい。これはその昔、アフリカの黒人を米国などに拉致するため、奴隷商人が奴隷候補者を選別している絵です。

キスをしているようですが、そうではありません。奴隷商人が黒人の汗を舐めて、病気がないか、また汗の塩分濃度が高いか低いかを確かめているのです。汗の塩分濃度が低い黒人を優先して拉致した由です。なぜそうしたのでしょう。右頁上図を見て下さい。アフリカから大西洋を越えて船で米国に黒人を拉致する時、かなりの日数がかかることがわかります。その際、現在のように、航海中に十分な食事を提供するなどということはありえず、大西洋上で命を落とす黒人が多かったようです。この長い航海を死なずに生き残るのは、少ない塩分で生活できる黒人、つまり汗に塩分の少ない黒人であると奴隷商人は経験からわかったのです。このため、黒人の汗をねぶって、拉致すべき黒人を選択しているのです。米国に拉致された黒人の祖先は体内に塩分を蓄積しやすい人が多かったことから、現在の米国黒人の「食塩感受性」が高くなったと説明されています。

続いて、なぜ塩分を摂取すると血圧が高くなるかを説明します。塩分を摂取すると、のどの乾きを感じると思います。寿司を食べた後など、よく経験します。これは浸透圧という現象のせいで、我々の身体は体液の濃度を一定のところに維持しようとします。食物中の塩分が腸管から吸収されて血液中に入ってきた場合には、それを薄めるため、水分を血管内に保持しようとします。このため循環血液量が増加しますが、容積の限られた血管の中で血液量が増加するため、血圧が上がらざるを得ないのです。

それでは塩分感受性の強い人と弱い人の差はどこにあるのでしょう。それは腎臓におけるナトリウムの排泄能力の差に由来します。「食塩感受性」の強い人は腎臓からのナトリウムの排泄能力が低く、かつ腎臓の尿細管でナトリウムの再吸収が強いという傾向がみられます。つまり塩分を身体にためやすい性質があるのです。奴隷として拉致された黒人が当てはまります。こういった「食塩感受性」の強い人が塩分を必要以上に摂取すると、けちな人が小金を貯め込むように、塩分を体内に留め、循環血液量が多くなって血圧が上昇します。

最近、血圧上昇で受診された二人の60代女性患者さんがいました。二人とも健診で高血圧を指摘され来院されましたが、受診時の外来血圧は160〜180でした。お二人には血圧の計測方法を説明し、また管理栄養士との食事相談を勧めました。推定塩分摂取量は当初11g/日程度でしたが、食事の調整を勧めると6g/日位まで低下し、それとともに血圧は110−120程度に低下しました。10月から治療を開始し12月の寒い時期にかけて血圧が下がっています。「暖かくなる春まで拝見して問題なければ来院は中止できる」と伝えました。典型的な「食塩感受性」高血圧の方でした。

日本人の高血圧症例の中で、「食塩感受性」の人は30〜50%程度存在すると指摘されています。「食塩感受性」が強いかどうかを確認することは実は難しいのですが、血圧の上昇を指摘された人はまず管理栄養士と話し合い、自身の塩分摂取量の評価を受けることです。そしてどのようにして塩分の摂取量を減らすか、食事のバランスをとるかといったアドバイスを管理栄養士から得て下さい。それでもだめな時に、降圧剤使用を考えればよいでしょう。

一日の塩分摂取量は「6g未満に」と勧めています。6gの塩とは実際、どのくらいかとお見せしても、たいていの方は「自分はこんなに塩分をとっていない」といわれます。しかし、「うどん一杯」には5〜6g程度の塩分が含まれていると伝えると驚かれます。どの食べ物に、どれくらいの塩分が含まれているのかを知ることが大切です。管理栄養士の豊富な知識を是非、活かして下さい。

 【坂東】

参考文献;成人病と生活習慣病 第39巻 No.3 食塩と生活習慣病 東京医学社