平均寿命の誤解

診察室での話し合いの中で、次のように言われる方がよくおいでます。「ワシはもう79歳になったけん、残りの人生は付録じゃ…」マスコミで「日本人の平均寿命は男性79歳、女性は86歳になった」と報道されるため、これらの年齢に達すれば、もう後はないとお考えのようです。平均寿命の誤解を解くために次のように話しています。

日本人がどのくらい長生きするかを調べるためには、国勢調査の結果を利用すれば正確です。しかし国勢調査は5年ごとに行われているため、人口動態の傾向をみるには少し間隔が開きすぎます。このため厚生労働省は推定人口による日本人人口や人口動態統計月報年計という資料をもとにして、毎年簡易生命表を作成しています。それをもとに平均寿命が計算されています。

現時点で利用できる最も新しい資料は平成19年の簡易生命表です。これは平成19年における我が国の死亡状況が今後変化しないと仮定したときに、各年齢に達した人が平均してあと何年生きられるかという期待値を表しています。現在、日本に生まれた赤ちゃんがこのままの世相で推移すれば、平均して男の赤ちゃんは79歳、女の赤ちゃんは86歳まで生きるだろうという値が平均寿命です。0歳時の平均余命を平均寿命と呼んでいます。80歳の人には直接関係のない値です。

平均寿命は将来戦争があったり、伝染病や大きな災害のために非常にたくさんの日本人が亡くなったりすれば低下します。昭和22年の平均寿命は男性50歳、女性53歳でしたが、これは戦争や結核によって夭折する人が多かったからです。この当時の日本人の身体が現代人と比較して劣っていたわけではありません。

それでは80歳に達した人は今度どうなるかを簡易生命表でみてみましょう。80歳男性の平均余命は8.5年、80歳女性は11.4年あります。現代の日本の状況から推計すると80歳まで生き延びた男性はあと9年弱、女性は11年ほど生きるだろうと予測できるのです。これはあくまで平均値ですので、もっと長生きする人も入れば、早々に鬼籍に入られる方もいるでしょう。ですから平均寿命を越えたからといってその後が付録の人生などではなく、80歳になっても前述のような平均余命が期待でき、死ぬまで本物の人生なのです。

少し視点を変えて、50歳男女の平均余命を見てみます。男性は31年の平均余命で81歳、女性は37年で87歳がそれぞれ平均的な寿命になっています。あくまでも予想値ですのでこの年限より長く生きられる人もいますし、早々とこの世から離れる人もでてきます。現在80歳まで生きてこられた男性は、現在の50代男性の平均的な寿命に無事到達できた選ばれた人達なのです。数々の困難を乗り越え、途中下車することもなく、たくましい人生であったことがわかります。80歳まで生きられたことを誇られたらと思います。

限られた人生の時間を、その人らしく、活き活きと生きられますように…

【坂東】

平成19年簡易生命表の抜粋
年齢 男性 女性
79.2 86.0
40 40.4 46.8
50 31.2 37.3
60 22.5 28.1
70 14.8 19.3
80 8.5 11.4
90 4.4 5.7