静脈の機能

心臓から体の各所に血液を運ぶ血管を動脈といい、逆にいろいろな臓器から心臓に血液を返す血管を静脈といいます。ご存知の方がほとんどと思います。

動脈の病気に比べて、静脈の病気が少なく、また命取りになることが少ないため、静脈は余り注目されませんでした。医師達の研究も動脈に重点が置かれてきた歴史的経緯があります。
しかしエコノミークラス症候群からの肺塞栓症という、致死率の高い病気が知られるようになり、少しは静脈も注目を集めるようになってきました。最近の外来で静脈の重要性を示唆する、特徴的な方がおいでましたのでお知らせします。

一人は50代後半の女性です。徳島から阿南まで、バイクにのってお墓参りに行かれました。バイクを降りて歩きかかると冷や汗がでてフラフラし、しばらく座り込んでしまいました。何が起こったのだろうとクリニックを受診されました。来られたときには血圧も脈拍数も異常はありませんでした。
もう一人の方は事務が仕事の、やはり50代の女性です。事務で座業が多く、夕方になって椅子から立ち上がるとふらつきがあったという訴えです。

これらふたりの方の症状はいずれも下半身に静脈血が溜まり、心臓に返る量が少なくなったことにより発生しました。バイクの女性は座席に座ったまま1時間以上もバイクの振動にさらされました。心臓から下半身には血液が絶え間なく送られますが、下半身から心臓に返る血液が少なかったのです。血液を心臓に返すためには特に、ふくらはぎの筋肉が収縮し、下肢静脈の血液を心臓に向かって絞り出すような足の動きが必要です。これを下肢静脈ポンプ機能と呼びます。バイクに乗り座席に座ったままで、たまにチェンジレバーを足で操作するだけでは、足に送られた血液を心臓に適切に返すことはできません。事務仕事で長時間椅子に腰掛けていた女性も同様です。

お二人とも、血液が下半身に送られましたが、下半身から心臓に血液を返すための下肢静脈ポンプ機能を十分に働かせなかったことにより、このような症状が出現しました。また、心臓に血液を返す静脈の機能は年と共に低下していきます。やせ型の若い女性は別にして、体を動かすことの多い、若い方ではこのような症状はあまり出現しません。

心臓から体の各所に送り込まれた血液が心臓に返ってくる仕組みは、本当に上手にできています。神様が作ったのなら、その智慧には何百回脱帽してもしすぎではありません。こういった体の仕組みを知って生活されると今回のようなトラブルを避けることができます。私達の体に備わった機能を大切にしたいと思います。

【坂東】