設計コンセプト
   
  二つの診察室  
   
  看護室  
   
  食事相談室  
   
  待合室  
   
  生理検査室  
   
  採血室  
   
  レントゲン室  
   
  処置室  
   
  廊下と天井  
   
  トイレ  
   
  受付  
   
  スタッフルームなど  
     

二つの診察室

 診察室は二つ必要と考えた。勤務医時代の経験から外来の患者さんは診察が終わると次の患者さんのために着替えや身繕いもそこそこに、そそくさと診察室を出ようとすることがわかっていた。次の患者さんを早く診察室に入れてあげようと、患者さんどうしが配慮しあっていた。この問題は解決したかった。患者さんが身繕いをしている間に、医師がじっと次の患者さんを待っていたりすると、そのこと自体が患者さんへのプレッシャーになってしまう。診察室が二つあれば、この問題は解決すると思った。

二つの診察室(廊下より)
二つの診察室(外から)
 診察室を二部屋作り、診察が終わると私がもう一方の診察室に移れば患者さんはゆっくり身繕いができる。設計図にあるように、診察室を二つならべ、私が二つの部屋を行き来するようにした。
診察室の窓と診察室間の扉

 また通常、外来診察室の後ろは開放となり、看護師など他のスタッフの通路として使用される。しかしこれではプライバシーの保護が困難になる。このため診察室間の通路は開き戸で閉鎖することとした。この扉は私が行き来するときにだけ使用している。このようにして二つの診察室を閉鎖空間とした。


 クリニックは広大は田園地帯の一角に位置しているため、周囲からの視線を気にする必要がない。このため診察室はウッドデッキを挟みガラス戸のみで田圃に開放されている。木造の塀はあるものの、壁一面はガラス戸であるため、眺めはすこぶるよい。田植えと稲刈りの時期だけ人目を避ける必要があるが、それ以外は鳥が飛び交うだけである。ただし、女性の診察と男性の下半身の診察に際してはロールカーテンを降ろして行っている。
診察室からの眺望

診察台とてすり
 診察台から患者さんが起きあがる時の問題も解決したかった。ヨーロッパなどの病院では入院室の枕元につり革があり、患者さんが起きあがるときにそのつり革を利用している。つり革も考えたが構造上ブラブラしたものが天井からつり下がっているのは美的にも問題があった。 使い終わったつり革が反動で患者さんの頭にあたる事も予想できた。診察台は患者さんの上り下りに際して、高さを調節できるものを導入するつもりであった。個人によってつり革の適切な長さが異なることも考え、つり革は不適切と判断した。このため診察台に隣接した壁に、斜めに走る手すりを付設した。手すりを斜めにすることで好みの部位をつかんで起きあがることができる。
枕元の手洗い
 私の診察では足背動脈拍動の確認をすることが多いため、診察後に手洗いをする必要があった。このため流水で手洗いができるよう診察台の枕元に水道設備を設置した。診察の流れからは足元の方に手洗い設備を置いた方がよいかもしれないとは考えた。しかし手洗いのあとの私と患者さんの動線が交叉する可能性があること、手を洗うのは患者さんが起きあがってきた時であり、患者さんの目の前で手を洗うよりは背中側で洗う方が感じがよいだろうと考えたことから、枕元に設置した。
ご家族用の椅子
 循環器疾患の診療では高齢の方が多いため、ご家族付き添いで来院されることが多い。これまでの経験では診察中や診察後の話し合いの際に、ご家族は立っていることが多かった。このためご家族用の椅子は用意したいと考えていた。建物と同じ杉材でご家族用の椅子も作っておいて欲しいと依頼し設置してもらった。

 診察用の机にはいわゆる事務机は避けようと考えていた。灰色のスチール机は私の中では論外の選択であった。またベージュのスチール机も、その触感からは選択したくなかった。私が長時間触れるものであり、患者さんへの説明に際して、患者さんも診察机を触れることがある。触感を重視したかった。このため診察机も木製にした。部屋の広さと診察台の幅、電子カルテのキーボードとディスプレイの幅を考え、私と患者さんとが話し合うとき、両者が机からはみ出さないような長さになるよう考慮して長さ150×奥行70cm、天板の厚さ30mmの机を発注した。机は完全なオーダーメイドではなく、一定の大きさから選択できる製品であった。
 なお、診察中は患者さんと正対することよりも患者さんは私の左側面を見ることが多いため、名札は私の左肩につけている。また白衣が患者さんに与える影響は私の予想以上に強いと感じたため、診察時に白衣を使用しないようにした。
診察用の机
左肩の名札
 椅子は私が使う椅子と患者さんが坐る椅子とを同じものにした。ただし、次の二点が異なる。私の椅子の座面は布であるが患者さん用椅子の座面は合成皮革である。これは、トロンボテストなどの採血検査を受ける患者さんが多く、椅子に血液が付着することがあっても簡単にふき取れる方がよいと考えたからである。また患者さん用の椅子にはキャスターをつけなかった。患者さんの中には椅子の肘掛けに重心をかけてから坐る方があり、キャスターがついていると椅子が逃げてしまい、患者さんが転倒することも予想されたからである。椅子の選定に際してはコクヨ・クロガネなど数社のカタログを利用した。座り心地や構造及び値段から今回の機種を選定した。難点は椅子本体側に向いた肘掛けが尖端となり、ループになっていないことである。着物を着て受診する人はほとんどいないが、このようなとがった構造物は着物の袖やバッグの紐、携帯のストラップなど、思いがけないものが引っかかる可能性があり、好ましくない。なお、患者さん用の椅子は丸椅子でなければ背部の聴診ができないと指摘されたことがある。私は坐位と仰臥位の両方で患者さんを診察しているため、背部の聴診が必要なときは診察台上に坐っていただければ十分可能である。
診察室椅子二脚
左患者さん用、右医師用椅子
       
引っかかる可能性のある肘掛け
 
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