これから使うnon HDL-C

日本人のコレステロール値をどの程度にコントロールすれば、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの動脈硬化性血管疾患を予防できるかといったガイドラインが、4〜5年ごとに改訂されています。現在流布しているものは2007年に公表されたものですが、新たなガイドラインが今年発表されます。その概要を説明する講演会が2月中旬に徳島大学で開催されたため、出席しました。

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012」と銘打たれた講演でしたが、治療目標となるコレステロール値に変更はありませんでした。しかし幾つかの分野で新たな視点が盛り込まれています。そのうちの一つが今回のタイトルであるnon HDL-Cです。横文字は苦手と言われる方には申し訳ないのですが、ノン・エイチディーエル・コレステロールと読みます。なぜこのような指標を使うのか説明します。
私達の血液中のコレステロールは、タンパク質と結合してリポ蛋白という形で存在しています。脂肪単独では血液中に溶け込むことができないのです。そのリポ蛋白には下の図1のような種類があります。この中で悪玉コレステロール(LDL-C)と善玉コレステロール(HDL-C)はご存知と思いますが、VLDL-C(超低比重リポ蛋白)やIDL-C(中間比重リポ蛋白)といった物質も動脈硬化を引き起こす作用が強いことがわかってきました。

LDL-Cが動脈硬化病変の主因であり、それを指標にして治療を続けることに変わりはありません。しかし中性脂肪が高くメタボと診断されるような人の場合、LDL-Cは比較的低くても、VLDL-CやIDL-C増加していて、血管疾患を発症する人があることから、このnon HDL-Cという指標を利用して、注意を喚起すると同時に、治療の指標にと考えたわけです。

それならVLDL-CやIDL-Cを個別に計測すればという声も聞こえてきそうですが、費用と時間がかかりすぎるため、総コレステロールから善玉コレステロールを差し引き、動脈硬化の誘因となる残り全てのコレステロールをnon HDL-Cと命名し、これを下げる治療が勧められるようになってきたのです。
なお、non HDL-Cの概念がでてきたきっかけの一つは、LDL-C測定値への信頼感の低下がありました。昔はLDL-Cを直接計測することはできず、フリードワルドの計算式[LDL-C=総コレステロール−HDL-C−(中性脂肪÷5)]を使って、算出していました。しかしこの計算式が使えるのは中性脂肪が400未満の時だけのため、なんとかLDL-Cを直接計測しようという動きになり、10数年前に日本の企業が成功しました。それ以来、LDL-Cの直接測定が主流になりましたが、各社のLDL-C測定装置を厳密に調べてみると、特に中性脂肪が高い患者さんの測定値に、ばらつきが大きいことがわかってきました。中性脂肪が高いメタボの人などでは、直接計測したLDL-Cの値は、その人の動脈硬化性疾患発症予想の的確な指標にならない可能性が指摘されたのです。このこともnon HDL-Cが採用されてきた裏事情になっています。

また、特定健診では総コレステロールの計測が指定項目から外れており、LDL-C、HDL-C、中性脂肪しか測りません。健診でもnon HDL-Cが計算できるよう、総コレステロールの計測が勧告されています。

なお、中性脂肪の値を正確に出すためには空腹時採血が必要ですが、総コレステロールやHDL-Cの測定には、空腹時採血としなくてもよいため、おなかをすかせて来院して戴く必要はなく、non HDL-C測定では患者さん側にも負担が少なくなります。

【坂東】

引用文献:日経メディカル2010年9月号