「3た論法」って何だろう?

「さんた・ろんぽう」と読みます。耳慣れない言葉だと思います。ある薬剤や健康食品等を使用して病状が改善した時、「使った、治った、効いた」と単純に評価してしまうことを、語尾の「た」をとって「3た論法」といいます。

診察時に「このサプリメント、のんでもええで?」と尋ねられることがよくあります。「娘が送ってくれたけん…」「裏のおばさんが使うたら、よう効いたっちゅうて勧めてくれたけん…」いろいろなことを契機に健康食品を試したいと尋ねられます。内容を拝見し、あまり害がなく、値段もほどほどなら「そんなに試してみたいんだったらのんでもええけど、効果がないようだったらやめとき!」と答えています。健康食品の向こう側に、実家を遠く離れ、年老いた親を心配している娘さんの姿が透けて見えるようです。

さて、このような健康食品のパンフレットを拝見すると、前述の「3た論法」で効果を謳っているのが多いように見えます。「○○を使ったら治った。○○はよく効いた。すばらしい。」と考えてよいでしょうか?

健康食品を使って病状が改善したとしても、それを使い始めた時はもう改善に向かっていた時だったのかもしれません。「効く効く」と思って飲んだ期待感から病状が改善したのかもしれません。「いわしの頭も信心から」です。医薬品の効果を判定する方法としては、この「3た論法」は不適切です。皆さんに処方している薬はこのような「3た論法」を根拠にしているわけではありません。

降圧剤にこの「3た論法」を適応してみます。「高血圧の人にAという薬を処方した。その人の血圧が下がった。Aという薬は血圧を良く下げた。」これが降圧剤での「3た論法」になります。薬を使用した時期が初夏だったのかもしれません。気温が上昇してくると血圧はさがります。家庭内のストレスが解消して気持ちが穏やかになり、それで血圧が下がったのかもしれません。不眠が解消して血圧が下がったのかもしれません。定期的な運動を始めたり、食事の塩分を制限したりして血圧がさがったのかもしれません。「よく効く薬ですよ」という医師の誘導尋問に引っかかったのかもしれません。このようなことが考えられるため「3た論法」では薬の効果を確認することはできないのです。

薬や健康食品に効果があるかどうかを判定するには、非科学的な「3た論法」ではなく、「二重盲検法」で評価します。これは評価の対象となる薬や健康食品を実薬として用意し、それらとは別に見た目、臭い、味、重さなどがまったく同じで有効成分を含まない対象薬(偽薬ともいいます)を準備します。そして処方する医師や薬剤師も、また投与を受ける患者さんやお客さん側も、どの人に実薬・対象薬が継続投与されたかわからないようにして試験を開始します。そして一定の期間が終了してから効果のあった人、なかった人を分類し、薬を使用した人に効果があったのかどうかを調べて、その薬の有効性を統計的な検討をもとにして判断します。投与する側も投与される側も実薬か対象薬かわからないので「二重盲検法」と呼んでいます。

健康食品やサプリメントを勧められたとき、その効果の根拠が「3た論法」に準拠しているかどうかを確認してください。きちんとした二重盲検法で効果が認められているのならその健康食品を試されてもよいと思います。

【坂東】