特定検診、特定保健指導

今年4月にこれまでの検診制度が変更されました。名前だけではなく、考え方も大きく変わっています。その変更内容について、検診を受ける皆さんにも考えていただきたく思います。

昨年までは各市町村が40歳以上の住民に対して、基本健診という名目で検診を行ってきました。当クリニックでも徳島市に住民票のある方に、問診、各種身体計測、採血、検尿、心電図、診察といった項目で検診をおこない、結果をそれぞれお知らせしていました。

しかしこれまでの方法では単に検診受けるだけでその後の改善がなく、費用をかける割には効果が不十分であるといった批判が寄せられたり、被扶養者の方の検診が手薄になったりしていると指摘されていました。このため今年からは糖尿病などの生活習慣病に着目して、「特定健康診査」「特定保健指導」という呼び名で、生活習慣を積極的に変えようという制度に変更されています。変更された検診内容を以下にお知らせします。

採血の項目変更

昨年までの採血検査と比較して、無くなった項目は(1)貧血の有無(赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット)、(2)アルブミン、(3)クレアチニン、(4)尿酸です。
身近であった貧血の項目がありません。貧血のあるなしは生活習慣病とは関係ないためはずされています。国保の方は(3)クレアチニン(4)尿酸の項目は残されましたが、被用者保険の方はこの(3)(4)が削除されています。CKD(慢性腎臓病)対策ではクレアチニンの値が重要でした。痛風予防として尿酸値の測定をし、必要に応じて食事相談、投薬治療を行いました。被用者保険ではこれらの項目は生活習慣病対策には無関係と判断されています。

また検診項目を当クリニックでの一般採血検査項目と比較してみます。コレステロールの薬を使用しているときにCK(CPKとも略します。)が上昇してくることもありますが、これはありません。また、腎機能が低下したり、薬剤の副作用でカリウムが上昇したりすることがありその確認もしてきましたが、電解質の項目はありません。当クリニック特有の問題として、人工弁を使用している人の場合にはLD(LDHとも略します)も変動しますが、これも含まれません。

これまで見てきたように、特定検診の採血項目は糖尿病、脂質異常、肝機能障害に限られており、病気をもっている人の経過観察用の採血検査としては適さないことがわかります。特定検診の採血はあくまでもメタボリック症候群の予防を目標としたものであり、治療中の病気の経過をみることができないとお考え下さい。病気で治療中の方は、特定検診とは別に採血検査が必要です。

心電図、貧血検査、眼底検査は原則削除

条件に該当し医師が必要と認めた人にだけ心電図検査、貧血検査、眼底検査を施行してもよいことになっています。しかし高血圧や心臓病などのために医療機関で治療を受けている人には、はじめから、検診としてこの検査項目を適用することはできません。病院に通院している人は特定検診の項目として心電図検査、貧血検査、眼底検査を受けることはできないのです。これらの検査を受けることができる条件は煩雑になりますので、クリニックの掲示板に掲載しておきます。

検診の対象は40歳〜74歳までに限定。

75歳以上は生活習慣を変更してもさしてかわらないと判断されているようです。75歳以上の方をこの特定検診に組み入れるかどうかの判断は、各自治体に任されています。徳島県では検診の対象は74歳までの人と、75歳以上の人でも過去1年間に医療機関を受診していない人に限定すると発表されました。しかしこうすると、県内では75歳以上の3.5%の人しか検診が受けられなくなり、高齢者の大多数が健康状態確認の機会が失われると批判されました。6月12日付けの徳島新聞では75歳以上の人でも入院患者や生活習慣病で外来治療中の方を除いて、全員を対象とするよう検討を開始したとも報じられています。どのような結論が出るか見極める必要がありますが、制度がスタートして2ヶ月以上たつのに、検診対象者が確定されないというのはお粗末です。

検診を受ける義務と病状改善の義務 


【週刊ダイヤモンドより引用】

今回の検診制度が開始されて5年後の平成25年にはこの検診制度の有効性などが評価されることになっています。
特定健康診査の実施率(受診率)や病気を指摘されてからの特定保健指導の実施率(受診率)さらに、メタボリックシンドロームの該当者及び予備軍の減少率、あるいは糖尿病患者、糖尿病予備軍の減少率によって、その人が所属しているいわゆる医療保険者(会社員なら会社、国保なら広域連合という組織)が後期高齢者医療制度に支出する拠出金が増額されたり、減額されたりします。構成員の病状の改善などがあり、最高の評価を受けると後期高齢者医療制度での高齢者への支援拠出金は10%減額されますが、最低の評価であると10%増額されます。メタボリック症候群の人が多いほど、生活習慣病の人が多いほど、その人が所属する医療保険者は、財政的な負担が増していく制度になっています。メタボの人は肩身がせまくなるでしょう。週刊ダイヤモンドに右図のようなマンガが掲載されましたが、こういった風潮が強くなるかもしれません。

昔、「風邪は社会の迷惑です」というコマーシャルコピーがありました。テレビで放送され始めましたが、批判を浴び早々に中止されました。「病気は迷惑」という傲慢な思想が顰蹙をかったのです。今回の検診制度改定では、病気の人が多い組織ほど医療保険金負担が多くなるという制度に変更されています。好きで病気になっているわけではありません。生活習慣を改善させることは大切ですが、遺伝的に生活習慣病から逃れにくい人もいます。生活習慣病のある人にペナルティーを与える制度は優性思想につながるのではないかと心配しています。このような制度を導入したいなら、後期高齢者医療制度と同様、事前にその是非を国民に問いかけ、国会でも十分論議する必要があると思います。

最後に

特定検診制度は内容変更もさることながら、医療事務的にもかなり複雑になっています。検診結果はこれまでは紙に記載して市町村に送っていましたが、今回からはすべてCDやフロッピーディスクに入れて提出しなければなりません。検査会社に代行を頼む方法もありますが、現場ではしばらく混乱が続くと思います。当クリニックでも検診体制がスムーズに稼働するまでは、特定検診を1日に5人に限定してみることにしました。ご不便をおかけするかもしれませんが、ご理解下さいますようお願い致します。

【坂東】