作詞家 阿木 燿子さんの講演

阿木 燿子平成19年10月7日に、京都で第4回転倒予防研究会が開かれました。当クリニックの患者さんで急性期病院での加療中に転倒し、骨折した方が何人かおられました。また通院中の方でもよく転倒する方がおられます。転倒すると、ひどいときは大腿骨頸部骨折を発症し、その後の生活が大きく制限されてしまいます。こういったことを防ぐために、一般開業医院でもどのような取り組みが必要かと思い、この会に参加しました。転倒予防に関しては後日お知らせすることにしていますが、この会で、ジュディ・オングの「魅せられて」やダウンタウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」などの作詞をした阿木燿子さんの特別講演がありました。

『自分らしく生きるために』という演題でしたが、いろいろと含蓄のあるエピソードを語られました。阿木さんはフラメンコのおもしろさに惹かれ、10年近く一生懸命練習をされた由です。しかし残念ながら膝を痛めてしまい、フラメンコは断念せざるを得なくなりました。そのとき、ハタと気づいたのは膝の変化に注意を払わず、無理矢理練習を続け自分の膝を痛めてしまったという、自らの思いの至らなさであったといわれました。文句も言わず、過酷な練習にも耐えてくれた膝に申し訳なかったと声を出して謝った由です。それ以来、阿木さんは体の各部分に対しても「ありがとう」と声を出して感謝するようになりました。臓器を痛めて初めて臓器の有り難さに気づいたのです。

阿木さんのすばらしい点は、自分の落ち度で痛めてしまった膝に対して、申し訳ないと謝ったことに留まらず、まだ痛めていない他の臓器の有り難さに気づき、いたわるようになったということです。一つの臓器を痛めてしまうと、なんで正常に働かないのかとその臓器に文句をいう人は多いのですが、その臓器に謝ったり「同じ轍は踏まじ」と他の臓器に目配りをする人は少ないように思います。

「臓器や体の各部位が自己主張すればおもしろい」といつも思います。自分の心臓や肝臓、足などにインタビューをしてみるのです。「私の体の中での居心地はいかがですか?あなたはあなたのご主人のことをどう思いますか?」「この体の中に生まれ育って良かったと思いますか?」さて、皆さんの臓器はどのように返答されるでしょうか?

【坂東】