ヒトが運動しなければならない理由 

ヒトが運動しなければならない理由 診察の時も、また『藍色の風』でも、皆さんに運動をお勧めしています。私達がなぜ運動をしなければならないのか、進化の面から考えてみます。

約4000万年前に、木の上で生活していたサルが、気候の温暖化に伴う豊富なエサのために体が大型化しました。このため、サルは地上に降りざるをえなくなり、このことからヒトの起源が始まったとされています。

地上に降りたサルから類人猿に進んできたと考えられていますが、類人猿は二足歩行の時間が長くなり、このために手を使用する時間が生まれました。手を使い、道具を使用することで大脳が発達し、脳の容積が増しました。大きくなった頭が背骨の上にしっかりと固定されるようになると、安定度がましてさらに大脳が発達するようになりました。こうなると大脳にたくさんの血液を送るため、心臓が発達することにつながります。   

心臓が発達してたくさんの血液を体中に送り始めると、今度は末梢に送られた血液を心臓に返す必要が生まれます。手に送られた血液は手を使ったり、手を挙げたりすることにより心臓に帰りますから問題がありません。しかし足に送られた血液は重力で心臓に帰ることはありません。静脈内には心臓の方に向かった一方向弁があります。血液で満たされた静脈が周囲の筋肉の動きによって圧迫されると、静脈内の血液は一方向弁に誘導されて心臓の方に帰ります。ふくらはぎの筋肉が収縮を繰り返すことにより、下半身に送られた血液は心臓に帰るような仕組みになっています。足が第二の心臓と呼ばれる理由はここにあります。足の筋肉が発達しなければ、良好な血液循環が維持されなくなります。普段からしっかり歩いて足の筋肉を鍛えておく必要があります。

さらに、頭を含む上半身を維持するためにはしっかりした骨盤、腰、臀部、下肢の筋肉が必要となります。ヒトが立位を維持するためには脊柱起立筋の発達も必要でした。

このようにサルから進化したヒトがヒトであり続けるためには、心臓や足、背中やおしりの筋肉がしっかりしたものでなければならないことがわかります。

私達の遺伝子は石器時代のヒトとほとんど変わらないと指摘している研究者がいます。私達がヒトとして生活し、ヒトとしての機能を維持するためには、こまめに体を動かし、体の各部位を鍛えておかなければならないのです。

驚くような科学技術が出現しています。太古の人達から見ると想像を絶するものでしょう。このような現代社会に生きていると、私達自身が非常に進歩した人間であるかのように考えてしまいますが、それは錯覚です。21世紀の人類として生まれてきても、太古の時代の赤ちゃんが生まれたことと、本質的には何ら変わりはありません。いくら科学が進歩しても、私達の生身の体は石器時代の人間と同じ遺伝子を受け継いでいることを忘れてはなりません。

私達がヒトであり続けるためには、体を動かさなければならないのです。

(参考文献:ヒトはなぜ歩かなければならないのか:体育の科学、2006 Vol.56杏林書院)

【坂東】