放射能汚染にどう対処するか?

福島原子力発電所の事故で、飛散したセシウムが稲わらに付着し、それを食べた牛の肉にセシウムが検出されたと報道されました。また陸前高田市の松を京都大文字の送り火で使おうとした際、高濃度のセシウムが検出され使用が断念されました。

福島から遠く離れた徳島では、原子力発電所から飛散したセシウムの中で生活するという状況ではありません。今後は食品に含まれているかもしれないセシウムに、どう対応するかを考えていけばよいでしょう。今回の震災で発生した放射能汚染に関してどのように考えて対処すべきか、まとめてみました。

今回の原稿作成では文末に示した資料やインターネットでの検索結果を利用・引用しました。明瞭な結論を導くことができると考えていましたが、放射能汚染に関してはかけ離れた意見が多く、その情報の取捨選択に迷いました。問題点は何かを皆さんにも示し、一緒に考えて戴きたいと思います。現時点で私ならこう考えるという視点で文章を作成しました。

年間の許容被曝線量

国際放射線防護委員会(以下ICRP)の2007年勧告では、一般人が宇宙線や地面からの自然放射線と、病気の診断や治療に使われる医療用の放射線とを除いた上で、このくらいなら我慢できるだろうとして設定された1年間の放射線量は、1ミリシーベルト以下です。日本人が年間に浴びる自然放射線量の平均値は1.5ミリシーベルトなので、年間に約2.5ミリシーベルトが許容範囲となります。

マスコミでは放射能事故後の復旧時には、年間許容被曝線量が1〜20ミリシーベルトと報道されてきましたが、ICRPの英文原著にはそのようには記載されていません。年間に1〜20ミリシーベルトの被曝が許容されるのは、その被曝があっても被曝を上回る利益がその個人や団体にある場合です。たとえば病院の放射線技師がそれに該当します。放射線技師の年間被曝量は20ミリシーベルトまでと決められていますが、彼らの仕事により、一般国民は非常に大きなメリットを受けます。また、航空機乗務員は宇宙線を受けるため、日本の航空会社の就業規則では合計搭乗時間は1000時間に制限されています。この1年間の搭乗で、被曝線量は5ミリシーベルトになりますが、航空機利用により、私達はいろいろな恩恵を受けます。

文部科学省は今年4月に福島の児童・生徒の年間被曝線量の上限を20ミリシーベルトに引き上げましたが、内閣官房参与の小佐古東大教授がそれを批判して辞任し、注目を集めました。ICRPの勧告内容を知っていれば当然の判断です。現地の父兄からは、子供の被曝線量引き上げに強い反発がありましたが、校舎・校庭などの除染活動の結果、放射能レベルが低下したという理由で、文部科学省は従来の1ミリシーベルト以下という基準にもどすと、8月末に発表しました。

緊急時には一般人も年間20ミリシーベルトまで被曝しても大丈夫という意見は、ICRPの見解を曲解したものです。そしてこのような高い被曝を受けることが分かっているときには、放射線に関する知識、被曝量の測定方法、取り扱いや防護法の訓練を受けるべきと、ICRPの勧告書には記載されています。1)

暫定規制値

現在公表されている基準は食品衛生法に基づき、厚生労働省が定めています。これまでは食品の放射能汚染ということを考えていなかったため、今回の原子力発電所の事故後に、ICRPの勧告を基にした原子力安全員会の「飲食物摂取制限に関する指標」を一時的に使用すると決め、暫定規制値と名付けました。その内容は以下のようなものです。「一年間、毎日摂取し続けても健康に害がでないとされる値を基にして、すべて食品1Kgあたりの放射能含有量をベクレル単位で表示する。放射性セシウムに関して、飲料水、牛乳・乳製品は200ベクレル未満、野菜類、穀類、肉・卵・魚その他は500ベクレル未満」とされています。放射性ヨウ素、ウラン、プルトニウムに関しても、それぞれ暫定規制値が示されています。

こういった放射能汚染対策の基準変更を検討していた部署の1つが、内閣府の食品安全委員会という組織です。今年3月22日から29日まで、5回の委員会が開催され、「食品衛生法に基づき放射性物質について指標値を定めること」という議題で討議されています。すべての議事録が食品安全委員会のホームページに掲載されており、初回は30分ほどの臨時会議ですが、それ以降は2〜3時間の濃密な議論が行われています。その全ての議事録を丹念に読む余裕はなかったため、3回目の委員会議事録だけを印刷して読んでみました。

委員会では政府側がこの方針で行きたいという基準値設定の考え方を示し、それに対して各委員が意見を述べるという形で進行しています。本来の許容被曝線量は前述した通りですが、年間の許容被曝線量を現在の1ミリシーベルトから増やし、10ミリシーベルトにしても大丈夫だと発言する委員、本来的にはこれまでの1ミリシーベルトを守るべきではあるが、このような緊急事態では10ミリシーベルトまで許容しても仕方がないのではとする委員、緊急事態といえども、一般人に対する許容被曝線量を増やすべきではないとする委員など、様々です。

許容被曝線量基準を緩めてもよいと発言している委員の意見を一部抜粋します。
「チェルノブイリ事故は最悪の大事故であった。原子炉に構造的欠陥があり、炉は炉心まで完全崩壊し、死の灰は10日間も大気中に噴出した。幸いにも放射線による犠牲者の数は少なく、ポーランドの一度の週末の自動車事故死の半数程度であった。一般住民には死の灰による犠牲が起こった確証はないようである。最後ですが、長い目で見た場合のチェルノブイリの教訓は、原子力発電が安全であることを証明してくれたことである。」

「甲状腺腫瘍がチェルノブイリ事故の死の灰で増加したという報告は、ヨウ素131の医療利用の結果とは一致しない。いわゆる治療で使う場合はもっと使っている。(被爆者に対して)甲状腺検査が熱心になされるため、潜在的腫瘍が多数検出されて、甲状腺腫瘍がみかけ上、増加したに過ぎないのではないか。」

許容被曝線量基準を緩めるべきではないとする委員は、これらの発言に対して次のように反論しています。この委員は甲状腺癌の専門医で、チェルノブイリで5年半、子ども達の甲状腺癌手術をした経験があります。

「子どもの甲状腺癌というのは(普通の状態では)100万人に1人が2人なのでございます。ベラルーシなどでは、爆発事故の前はほぼ同じくあったんです。それが今度は高濃度の汚染地、それから低濃度の汚染地を見ていますと、全体でみますと、やはり高濃度の汚染地で(ある)ゴメリ州では(子どもの甲状腺癌が)130倍に増えているわけです。これは単に検査が進んだからとかそういうような状況ではないだろうと思っていますし、また少し低濃度のところでも、やはり世界に比べると高いということが出ておりまして、(中略)今回はそういうメカニズムは見ていくべきであろうと思っています。」
被曝線量を増やしても問題はないとする意見と、現状のレベルを維持すべきと発言する委員の意見を読んで、皆さんはどちらの委員の意見に共感するでしょうか?

不正確な政府の情報公開

国の放射能防御に関する基準は、ICRPの勧告をもとに作成されていますが、その運用や解釈において国の態度には不誠実な点が見られます。児童生徒の許容線量を20ミリシーベルトに引き上げた問題以外にも、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測システム)の結果を公表したのは、5月3日でした。また国立環境研究所が作成した東日本におけるセシウムの大気濃度や沈着積算量を経時的に表した動画(同所HPにあり)が、牛肉のセシウム汚染発覚時にテレビ放映されましたが、これを早期に公表しておけば、的確な防染対策がとれたのにと、唖然としました。

また3月20日、飯舘村の高濃度土壌汚染が指摘されましたが、そのときの数値は平時放射能の1600倍にあたると報じられました。このときは土壌1Kgの放射能を測定しています。3月時点ではまだ放射能は土深く浸透しておらず、表面に降り積もっていた可能性が高く、たとえば30センチ四方の広さで5Kgの土を掘り出し、そこに含まれる放射線量を計測し、1Kgあたりに換算すれば、放射線量は低く表示されてしまいます。土壌の放射能汚染は1平方メートルで計測すべきであると指摘され、途中で計測方法を変更しています。これも知識の無さか、または意図的なのかは不明ですが、こういった不正確で不適切な情報公開が随所に見られました。

確定的影響と確率的影響

さて、放射線による障害を考えるとき、「確定的影響」と「確率的影響」という2つの考え方があります。確定的影響というのは、一定以上の放射線量を浴びると何らかの症状が必ず現れるということです。たとえば放射能による脱毛は典型的な確定的影響です。3.5シーベルト程度以上浴びると、必ず脱毛現象が起こります。それ以下では脱毛は一本もおこりません。

これに対して確率的影響というのは、これ以下の線量では起こらないという線引きができない影響です。癌や遺伝的影響がその典型です。被曝線量が少なくても発生するかもしれないという影響で、セシウムに汚染された食品を食べたときの影響は、この確率的影響を考えなければなりません。ちなみに、原発事故後、枝野官房長官が「専門家によるとこの放射線量は直ちに人体には影響がないレベルです。」という発言を繰り返していました。この「直ちに影響がない」というのは原発事故後の処理作業をする作業員などが、大量に被曝した時に出現しうる、急性の放射線障害を診断する際の言葉、つまり確定的影響を判断するに際しての用語です。放射能汚染による確率的影響を考えなければならない一般市民に対しては、使用する用語ではありません。真の意味を知ってか知らずか、政府のスポークスマンはこのような発言を繰り返しました。

さて、放射線被曝による確率的影響は広島・長崎による原爆被爆による調査で、ある程度のガイドラインができています。「100ミリシーベルトの被爆を受けると、生涯に癌で死亡する危険性が0.5%増加する」という基準です。それでは100ミリシーベルト以下ではどうかというと、10ミリシーベルトの被爆を受けると、危険性は0.05%というように、被爆線量と危険性は直線関係にあるとされています。被曝線量は少ないことに超したことはありません。

ペトカウ効果という言葉があります。1972年にカナダの原子力公社、ホワイトシェル研究所で、アブラム・ペトカウ(写真左)が次のような現象を発見しました。「細胞膜を破壊するには、X線の大装置から毎分260ミリシーベルトで全量35シーベルトの高線量率照射が必要だったが、水に溶かした放射性食卓塩(塩化ナトリウム22)から毎分0.01ミリシーベルトという低線量率を長時間照射すると、全量でわずか7ミリシーベルトの長時間照射で、細胞膜は破壊された。」少量で慢性的な放射線照射は、高線量の短時間照射よりもその影響がより大きいと結論づけました。このようなペトカウ効果の存在が、少量・長期放射線被曝への警鐘になっています。

今後、私達が放射能に汚染された食品を食べたときにどの程度の被曝になるか、計算してみました。これは摂取したベクレル数に1.3×10−5の係数(成人でセシウム137の場合)を掛ければ求められます。これまでの調査で判明した最も高濃度の汚染牛肉(セシウム137濃度4000ベクレル/Kg )を年間に10Kg食べた場合は0.52ミリシーベルト、セシウム137濃度が500ベクレル/Kgの野菜を年間100Kg食べた場合は0.65ミリシーベルト、セシウム137濃度が200ベクレル/Lの水を1日に2リットル、一年間飲むと1.90ミリシーベルトに、それぞれなります。これらの摂取では確定的影響がでるレベルではありませんが、複合して摂取した場合、確率的影響に関して、問題はないとは断言できません。

まとめ

今回の文章を読まれても、なかなかスッキリとはわからなかったことと思います。低線量放射線被曝による確率的影響に関しては、放射線防護専門家の間でも意見が分かれています。しかしそのような状況でもはっきり言えることは、細胞分裂の盛んな子どもや胎児への被曝は、できるだけ避けなければならないということです。「食品一つ一つの放射線量を計測してから食べる」などということは実際上できないため、食品の流通段階できちんと対策が取られているかどうか、子ども達のために、大人がきちんと確認していくことが必要と思います。

 【坂東】

参考資料:1)放射能汚染 ほんとうの影響を考える:浦島充佳(化学同人)/放射線って大丈夫?:日本放射線公衆安全学会(文光堂)/放射能からママと子どもを守る本:野口邦和(法研)/これでわかる からだのなかの放射能:安斎育郎(合同出版)/放射能汚染の現実を超えて:小出裕章(河出書房新社)/人間と環境への低レベル放射能の脅威:ラルフ・グロイブ(あけび書房)/45分でわかる!放射能汚染の基礎知識:朝長 万左男(マガジンハウス)/子どもを放射能汚染から守りぬく方法:武田邦彦(主婦と生活社)/放射線から子どもの命を守る:高田 純(幻冬舎)/誰でもわかる放射能Q&A:澤田哲生(イースト・プレス)/世界一わかりやすい放射能の本当の話・完全対策編:別冊宝島編集部(宝島社)/世界一わかりやすい放射能の本当の話・正しく理解して、放射能から身を守る:別冊宝島編集部(宝島社)/美しい村に放射能が降った:菅野典雄(ワニブックス)/中央公論9月号:「放射線リスクの真実」(中央公論新社)/日経メディカル8月号:「放射線リスクをどう説明する」(日経BP社)/月刊保団連 8月号:「原発事故と健康被害」(全国保険医団体連合会)/世界 8月号:「放射能汚染地図」から始まる未来 :同9月号:「放射能汚染時代」(岩波)