体が冷える理由

診察時に「からだが冷える」「足が冷たい」「下着を何枚はいても寒い」と訴える方がよくあります。のどの両側にある甲状腺の機能が低下すると、他の人より寒く感じることがあります。足の動脈が狭くなったり詰まったりすると、足が冷たくなることがあります。診察や検査で、こういった病気がないと診断できても、やはり「寒い」「冷たい」と訴えることがあります。加齢により体温は低下してゆくのですが、その仕組みを知って対策を考えてみましょう。

体温をうまく調節するには、身体の中で熱を発生する発熱機能と熱を身体の外に出す放熱機能がうまくバランスをとって働かなければなりません。熱を発生させる臓器や、「暑い、寒い」を感じるセンサーとしての受容器、また頭の中で視床下部という部位にある体温調節中枢がそれぞれきちんと機能してはじめて、私たちの体温は一定のところに維持されます。しかし残念ながら加齢に伴い、体温調節に関わる種々の段階で、これらの機能が低下してくることがわかっています。

加齢に伴い、臓器の予備能力が低下しますが、寒さに対して直ちに熱を発生させたり、暑さに対して手足などの末梢の血管を広げて放熱量を調整したり、また汗を出して体温を下げたりする機能も十分働かなくなります。ですから、高齢の方は春や秋などの気候のよい時期には体温の維持は容易なのですが、夏、冬で外気温と体温との差が大きくなる季節には体温調整がうまくいかず、体調を壊しやすくなります。

私たちは寒い環境におかれると、若年者なら皮膚などの表面にある血管を収縮させて皮膚表面から熱が外部に逃げないようにします。また発熱量を増加させ体温を一定のレベルに維持しようとします。しかし高齢者では皮膚血管の収縮反応が十分ではなく、外気温が低いにも関わらず皮膚血管を開いたままにしているため、血管から外に熱が逃げやすくなります。また熱を発生させる能力も低下しているため体温が低下していきます。

皮膚表面には熱さや冷たさを感知するセンサーがあります。熱さや冷たさのアンテナと考えてもよいでしょう。熱さを感じるところを温点、冷たさを感じるところを冷点といいますが、ヒトでは冷点の方が温点よりも多くなっています。この密度の差はヒトが太古の時代から冷たさ、寒さに対して防御してきた名残と思います。また冷点が多く分布するのが唇と腹部です。「物言えば唇寒し秋の風」という芭蕉の句がありますが、芭蕉も唇が寒さを感じやすいことに本能的に気づいていたのでしょう。腹部に冷点が多いのは腹部を冷やさないようにするヒトの上手な仕組みと思います。子供のときに使用した金太郎の腹巻を思い出します。

さて、この冷点の分布数も加齢により減少することが判っています。高齢者(30名 平均年齢73歳)と若年者(20名 平均年齢26歳)の前腕部から足部までの皮膚表面の冷点の数を数えた調査があります。単位皮膚面積(4cu)あたりの冷点の数は若年者の平均が66個あるのに対して、高齢者では32個しかありませんでした。部位別では高齢者足部の冷点減少が著明で、若年者の40%以下であったと報告されています。冷点の数が少ないということは寒さを感知して対応策をとるのが遅れるということを意味します。低い外気温にも関わらず、高齢者の手が比較的温かかったりするのは、このことが原因とされています。

以上のように、加齢に伴い体温は低下し、外部環境の変化を捉える機能も、また対応する機能も低下してくることがわかります。さて、この状況にどのように対応すればよいのでしょうか?次ページ以降をごらん下さい。

引用文献:「体温はなぜ37℃なのか」

【坂東】