老ける理由

「年齢重ねると老ける」と考えています。大筋では間違いはないようにも思いますが、これとは少し違った考え方が提唱されています。皆さんはどう考えられるでしょうか?

1998年のスペースシャトル「ディスカバリー」に当時77歳の宇宙飛行士、ジョン・グレンが搭乗したのを覚えておられる方もいるでしょう。彼は1962年に米国初の有人地球周回飛行を行い、一躍有名になりました。そのジョン・グレンが80歳近い年齢で再度の宇宙飛行をするというのを聞いたとき、私はその意図がわかりませんでした。遅まきながら、この宇宙飛行には加齢の仕組み解明とその防止という壮大な研究が企図されていたことに、最近気づきました。

宇宙に出て長時間無重力状態にいる宇宙飛行士には、高齢者のような変化がでてくることがわかりました。血圧の調節がうまくできにくくなり、血圧の変動が大きくなる。心臓や循環器系の働きが悪くなり、起立性低血圧が発生する。筋肉は衰えてやせ細る。骨からはカルシウムが溶け出して重症の骨粗しょう症になる‥等など。それ以外にも視力低下、難聴、味覚異常、自律神経失調、免疫力低下、不眠症が現れることがわかりました。しかし、このような状態で地球に帰還した宇宙飛行士達も、適切なリハビリを繰り返すことで元の元気な若者に戻るのです。

宇宙飛行中のこのような変化は無重力が影響しているのか、宇宙線などの放射線が悪さをしているのか、検討されました。NASA(アメリカ航空宇宙局)は宇宙飛行士やボランティアの人達に対して、地上でベッド上安静を続ける実験をしたところ、宇宙滞在と同様の変化が被験者に出現することをつきとめ、この老化現象は重力を活用しないことで発生すると結論付けました。

この分野で精力的な研究を続けてきたNASAのジョーン・ヴァーニカスは次のように述べています。「老化現象の多くは長い人生をかけて、徐々に重力の恩恵を避けるようになった結果である」と。重力を厄介なもの、不必要なものとしてではなく、人の生活にとって必須のものと認識しています。年齢を重ねるから老けるのではなく、「重力の恩恵を避けるようになるから老ける」少し言いかえると「重力の重要性に気づかず、重力に抵抗しなくなるから老ける」端的に言えば「身体を動かさなくなる」から「老ける」というのが結論です。

私たちは加齢とともに楽な暮らしを求めるようになります。また周囲の「年寄りの冷や水」的な視線で自己規制したり、儒教的な教育から、「年なのだから無理をせずにゆっくりと」と勧められたりするようになります。高齢者をいたわるという面で、このような扱いを否定するものではありませんが、このことが行き過ぎると重力の重要性に気づかず、その恩恵を遠ざけ、加齢を速めてしまうことになるというのです。

通院する患者さんを拝見していても、80歳を超えて現役の仕事をしている方は本当にお若いと感じます。元気だから仕事をしているのではなく、仕事をしているから若くて元気なのでしょう。

先天的な疾患や重篤な病気で動きたくても動けない人がいるのも事実です。しかし現在十分動くことができる人は宇宙医学から解明された、加齢を避けるこの仕組みをうまく利用して、元気な高齢者を目指されたらと思います。

ジョン・グレンが古希の齢で再度宇宙に飛び立ったのは、高齢に達した自分の身体を宇宙空間に晒し、その変化に関する情報を集め、地球上の高齢者の健康維持に役立てようとする高邁な思いが基礎にありました。米国人の開拓者精神には脱帽します。

【坂東】