食事相談による医療費削減効果

このクリニックを開設して3年半になります。循環器系の疾患を予防し、病気の進行を防ぐためにいろいろと工夫をしてきました。皆さんとのこれまでの診療の中で、どのような目覚ましい効果があったかということを、今年1月に横浜で開かれた日本病態栄養学会で発表しました。
看護師の説明する方法で家庭血圧を計測し、管理栄養士との面談で食事の調整を行い、体重が減少していろいろな効果が認められました。降圧剤を中止できた人11名。インスリン注射を内服薬に変更できた人2名。糖尿病の内服薬を中止できた人2名。睡眠時無呼吸の夜間人工呼吸を中止できた人1名。検診で境界型の高血圧や糖尿病を指摘され、それが正常化した人12名。体重の減少は1.3Kg〜21.1Kg(平均7.7Kg)、減量に要した期間は半年から1年半程度で、食事相談の回数は毎月1回受けた人から、最初に1回受けただけで効果のあった人まで、さまざまでした。

こういった診療でどの程度の医療費が削減できたかを計算しました。それぞれの方が平均寿命まで生存すると仮定すると、今後の予想生存年数がわかります。その予測年数に削減できた年間の薬代などの費用を掛け合わせると、医療費削減額が算出されます。夜間の人工呼吸器を中止できたことで648万円、高血圧症の薬を中止することで915万円、糖尿病薬を中止することで121万円、インスリンを中止することで265万円の医療費が不要となりました。合計で1,950万円程度の医療費が削減できたことになります。(インスリン注射を中止した人は内服薬に変更しており、実際の削減額はもう少し少なくなります。)さらに、体重減少により薬の量を減らせた人達の薬代削減額や、境界型高血圧症・糖尿病12名の方々が正常化したことによる、将来の医療費削減額を合算すると、その額は莫大なものになります。しかし通常の診療に加えて、追加で要した費用は管理栄養士の給与と外来栄養指導料であり、削減された医療費の方が圧倒的に必要経費を上回っています。本当の医療費削減のために、何をなすべきかの道筋が見えてきたと思います。

さて、高血圧症の原因には遺伝的なものと環境的なものがあります。家系に高血圧症が多い場合には血圧は高くなりがちです。また食塩摂取の多い人や、精神的なストレスが強い場合にも血圧は上昇します。それでは、なぜ、体重を減らすことで血圧が下がったのでしょうか?『藍色の風』第5号でも書きましたが、腹部内臓脂肪はアディポサイトカインという物質を出しています。アディポサイトカインの中のアディポネクチンという物質は、ヒトが太ってしまうとその分泌が少なくなります。このアディポネクチンは血管の壁をゆるめたり、血管の内側の壁を保護したりする作用があります。痩せるとアディポネクチンが増加するので、血圧がさがると推定されます。

また、太るとインスリンの作用が現れにくくなり、それを補うために血液中にはたくさんのインスリンが増えてきます。インスリンが増えると、交感神経が緊張して血管が収縮したり、腎臓が塩分を保持したりするように働くため、血圧が上昇すると考えられています。
体重を落とすことで、今回お知らせしたような効果がみられました。生活習慣病による、脳・心血管系の合併症を防ぐためには、食事の調整
と運動によって体作りをし、血圧をきちんとコントロールすることが大切です。こういったことでこそ、限りある医療費を適切に使うことができると思います。

【坂東】