「心臓が老いる」ということ

年がいくと、髪が白くなったり薄くなったり、また背中が曲がったり、手足の関節が硬くなったりします。年がいくと体のいろんな部分が変化していきますが、髪の毛や骨のように目で見てわかる変化は皆さんよくご存知です。それでは、目に見えない心臓にはどのような変化が現れるのでしょうか?一緒に考えてみましょう。

私たちの心臓にはいろいろな機能があります。心臓の筋肉が収縮して血液を全身に送り出すポンプ機能は有名です。この、心臓の筋肉が収縮する力は、心筋梗塞や他の心筋疾患が無い限り、高齢になってもよく維持されることがわかっています。ただ、心筋細胞の数は加齢とともに減少し、その数の減少を補うために心筋細胞はやや太くなります。このため収縮した心臓が広がっても元の状態に戻る時間が長くなってしまいます。心臓が収縮してその後拡張し、もとの状態に戻る周期が加齢とともに長くなってしまうのです。ある一定の仕事をするのに心臓が100回収縮して血液を送り出す必要があるとします。若い人であれば60秒で終わるのに、年配の人であれば80秒かかってしまうといえばわかりやすいかも知れません。

高齢の方に心臓の超音波検査を行うと「心臓の収縮力は正常だが、拡張能力が低下した人」をたくさん見かけます。高血圧の方に特に多いようです。こういった人たちが急いで物事をしようとしたときにどのような変化がおこりうるかを考えてみましょう。

二階に重たいものを急いで運ぶ状況を考えてみます。荷物を二階に運んでいく時、心臓はその活動に必要な血液を体中に送るために一生懸命、収縮・拡張を繰り返します。しかしその収縮・拡張に要する時間が若い人より長いため、必要な血液をすばやく体中に送りにくい状態になります。その状態を続けていると肺できれいになった血液が心臓(左心室)に行こうとしても左心室が広がっていないため左心室の手前の左心房にたまってしまいます。さらに左心房の手前の肺に血液がたまり、肺の正常な機能を障害してしまいます。肺の重要な機能は体の中に酸素を取り込み、体内の二酸化炭素を吐き出すことですが、この仕事ができにくくなって息苦しさが強まります。この状態を我慢したまま作業を続けると、余分な肺の血液は肺の組織にしみ出して呼吸不全・心不全状態へと進んでいきます。

これまで、心不全は心臓の収縮力が落ちた人に発生すると考えられていました。しかし、60歳以上の高齢者で心不全を起こした人を調べてみると「心臓が収縮する力は正常だが、拡張する力が落ちて心不全になった人が40%もあった。」という報告もあります。  

普段は元気に生活している人でも、脈拍が増加する状況、血圧が上昇する状況が重なった場合には心臓の拡張障害から心不全を起こしてしまったり、胸苦しさが出現したりすることが発生します。
また加齢に伴い、血管を広げたり縮めたりして血圧を維持する機能が若い人のように働きにくくなってきます。そのためちょっとしたことで血圧が上がりやすくなってしまいます。高齢者の方だけでなく、普段運動不足の壮年者の方も急に激しい運動をしたりすると拡張障害から呼吸不全・心不全症状が出る場合があるのでご注意ください。

このように、心臓・血管の特徴を考え、年齢に応じた活動をしなければ思わぬところから心不全を起こすことになります。心拍数や血圧の増大する作業を長時間行うことは避けたほうが良いでしょう。
かといって一日中じっとしている必要はありません。適度な運動は健康維持にとても重要です。運動に伴う脈拍数・血圧の増加は個人によって異なりますが、「うっすら汗をかく程度の運動」が適切でしょう。『藍色の風 第17号』に紹介した筋力トレーニングも参考にしてください。

【看護師 竹内・長尾・速水・立石・阿部】